30年続いた「平成」は、
2019年の4月末で終わり、
新たな元号「令和」の時代が
すでにスタートしていますね。

ところで平成最後の月は、
日本社会のすべての勤労者にとって
画期的な出来事が
発生したときだったことを
ご存じでしょうか? 

これはかなり前から
決められていたことですが、
新たな元号が発表された
4月1日は、ちょうど
「年次有給休暇の時季指定義務」
という法令が施行された日でもあった
のです。

この法令は、アンチエイジング診療や
自由診療を標榜する
医療機関においても適用されます。

医療機関の経営者や
人事・労務の担当者すべてが
よく理解しておかなければならない
変化であることは間違いありません。

「年次有給休暇の時季指定義務」が準備された背景とは

「年次有給休暇の時季指定義務」とは? 
わかりやすく説明しますと、
「1年に10日以上の
有給休暇を与えられている労働者」

に向けて、
「1年に5日以上の
有給の取得」を義務付けた

というものです。

よく知られているように、
日本ではあらゆる業界で
勤労者がなかなか
有給休暇を消化しようとしない
傾向がありますね。

しかし有給休暇は、
労働者の当然の権利です。
これまでは労働者個人の意思に
ゆだねられてきたわけですが、
いっこうに状況は改善されませんでした。

日本は社会全体で
「ブラック企業」「ブラック労働」
問題を抱えていますが、
その解決に向けて、
有給休暇の取得を
はっきりと義務化したわけです。

医療の世界でも、
大病院や総合病院を中心にスタッフが
なかなか休めていないところが
山のようにあります。

この法令をきっかけに、
すべての医療従事者が
的確に休めるように
働きかけていくことが理想でしょう。

「年次有給休暇の時季指定義務」が適用される範囲とは

この法改正で、
有休の取得を義務付けられるのは
正規雇用のスタッフだけではありません。

契約社員やパート・アルバイト契約の
スタッフ、また派遣社員といった、
非正規雇用のスタッフでも、
年間で10日以上の有休が
認められる状況であれば、
年間で最低でも5日は
有休を使わないといけない
のです。

正社員であれば、
半年勤務していればもう
義務化の対象となります。

非正規雇用でも、週に3日以上
勤務している場合なら
勤続年数しだいで
義務化の対象になり得ます。

たとえば、年間の勤務日数が
169~216日なら3年半勤めた時点で
付与される有休は年間で10日となります。
年間の勤務日数が121~168日なら
勤続年数が5年半に達した段階で、
有休は年間で10日取れます。

「年次有給休暇の時季指定義務」を万一、守れなかったら? 

さて、有休の取得をせっかく義務にしても
……守られなかったら意味がありません。

そこで国は、この法令を
無視した場合に罰則を用意しています。

  • 6ヶ月以下の懲役
  • 30万円以下の罰金

以上のどちらかが、
雇用者側に課されるのです。

※さらに、これだけでは
 じゅうぶんではないと考えた国は
 「(有休の)時季、日数及び基準日を
 労働者ごとに明らかにした書類」
 を作成する義務を雇用者に課しています。

これを「年次有給休暇管理簿」と呼びます。
3年は保存しないといけません。

では、有給休暇を全スタッフが的確に取れるようにするには何が必要? 

有給休暇の取得が義務になった以上、
スタッフ一同には
きちんと休んでもらうしかありません。

ただ、ここで懸念されるのは、
「いつ、だれに休んでもらうのか?」
という問題でしょう。

もともと、日本人がなかなか
有休をとろうとしないのは
「迷惑がかかるから」という
大きな理由があるからでした。

集団の和を大切にする日本では、
すべての労働者が
周りへの悪影響を気にかけてしまうわけです。
人材難が深刻な医療の世界でも、
この傾向はまったく変わりません。

というわけで、医療機関の経営陣は
今年の4月から、

  • すべてのスタッフが確実に有休をとれるような
    施策を試みる
  • なおかつ、日々の経営や診療に支障が出ないように
    調整する

と、同時に2つの課題に
取り組む必要があるといえるでしょう。

スタッフに対して、どんな告知をしていくべきか? 

さて、医院の経営に穴をあけないようにするには? 
やはり、なるべく同じ頃に
有休をとらないようにしてもらうことでしょう。

そのためにできることを並べると、次のようになります。

・繁忙期と、そうでない期間を早めに伝達する

繁忙期の有休消化は、なるべく避けてもらうと
よいでしょう。

・繁忙期や、休みが重なりそうなときの
有給取得は、早めに申請してもらう

たとえば、夏休みをはじめとした行楽シーズンは、
スタッフの家族も休みに入るでしょう。
したがって、スタッフが
休みたがる時期が重なりやすくなります。

また、人事異動の時期や研修の時期は
どうしても医院全体が忙しくなりますし、
休むスタッフは少人数に抑えたいものです。

このような時季に備えて早めに、
休みたいかどうかを
スタッフ全員に質問することは
いい方法です。

早めに把握できれば、調整もやりやすくなるでしょう。

・状況によっては、医院側から
休む時季を指定することも検討する

これは法令でも盛り込まれているポイントです。

あくまでもスタッフ側の意見を
聞いてから行う必要があるのですが、
ある程度であれば休んでほしい日にちを
医院側が指定することは認められています。

※また以前から、労使協定書を準備すれば
 有休の取得時季を前もって計画的に
 決めておくことは認められていました。

・スタッフの有休取得状況を毎月、
きちんと計算して把握する

なかなか休まない
スタッフがいるときは、
早めに連絡して休みの時季を
話し合うべきでしょう。

顧問社労士に協力してもらうと、
この作業は楽に進められると思われます。

「年次有給休暇の時季指定義務」に賢く対処するために

スタッフの有給休暇取得の義務化は、
国が本格的に乗り出しています。

この動きに逆らうことはできませんし、
最初の年から対応に
積極的に乗り出すことがいちばんでしょう。

ミーティングを開いたり
スタッフ全員にメール等を送ったりして、
有休に関する情報を
正しく伝えることが大事です。

そして、全スタッフに有休をいつ使うのか、
計画的に考えてもらいましょう。
早めに報告してもらえれば、
医院側も余裕をもって対処できるはず
です。