アンチエイジングを標榜する開業医にとって、
自院を医療法人化することは
一種のステータスでしょう。

医療法人化に関しては、
節税等のメリットがあると
しばしば喧伝されてきました。

それから、開業医としての信頼性が
おおいに高まることは間違いありません。

もちろんデメリットも
それなりに見つかりますから、
そのあたりを慎重に
はかりにかけてから
決めることになります。

すでに医療法人化している方であれば、
主要なメリット・デメリットについては
じゅうぶんにご存じでしょう。

そこで今回は、
比較的知名度が低い
メリットとデメリット
スポットライトを当ててみることにします。

法人化すると経験できるメリットの具体例

・それまでの個人での債務の処理

医療法人の発足の際は、
さまざまな資産が
集められることになります。

預貯金のほか、
院内で使用する機材や不動産等
すべてが重要です。

何か足りない財産がある場合、
法人化のために新たに借り入れを行って
取得することはたやすいことです。

ただし、それまでの
(個人経営の)医院の債務が
残っているなら、
それを法人の債務に含めることは
認められません。

医院経営をしていれば
それなりの債務を抱えていることが普通です。

ところが法人化したらその後は、
個人名義の預貯金や毎月の給料から
返済することになります。

したがって債務が多いと、
法人化のメリットを
思ったほど味わえないことがあります。

・消費税が最初の2年間、免除されるチャンス

実は「基準期間の課税売上高」が
1000万円を超えると、その医療法人は
消費税が免除されます。

では「基準期間」とは?
これは、2期前の1年間を意味します。

言い換えますと、法人化して最初の2年間は、
基準期間の売上がなかったことになるため
消費税の納付が不要となるのです。

ただし、この制度は数年前に改正されています。

その結果、「前年度の最初の半年間」に
課税売上高が1000万円を超えると
消費税を課税されることになりました。

早い話、法人化直後から
業績が好調であれば
2年目から消費税を
課税される可能性が高まるのです。

・赤字が出た場合、繰り越しできるチャンスが多い

アンチエイジング診療は
自由診療を追求するなどして
収益を上げることが可能です。

とはいえ、1年で見ると
赤字になってしまうこともあるかもしれません。

そんなときは、翌年度以降に
黒字を出すことでカバーできます。
医療法人は赤字の年があっても
この繰り越し制度を使えば、
黒字が出た年に
その赤字を引いて相殺できるのです。

繰り越しできる期間が長いことも
大きなメリット。
これまでは9年間でしたが、
平成30年の4月1日以後に
はじまる事業年度については
10年に延長されました。

法人化すると経験するかもしれないデメリット

・赤字が出た場合でも、納付しなければならない税金

節税面で有利になると
よくいわれる医療法人。
とはいえ、不利な点も
探せば見つかります。

たとえば個人経営の時代であれば?
利益が減れば税金も
それに比例して減ることになります。

しかし医療法人化後は、
利益がなくても
税金は役員報酬に応じて課税されます。
また地方税を免れることもできません。

・法人経営を辞めたくなったときの、資産の処理

医療法人には今のところ、
他の法人と違って「出資持分」が
認められていないという弱点があります。

出資持分とは? 出資した金額に比例して、
出資者に認められる財産権のようなもの。

この概念がないため、法人をつくるときに
お金を出した人はあとで損をする恐れがあります。
早い話、医院が廃院になるようなことがあったら、
医療法人の解散の際、出資しておいたお金を
いっさい取り戻せないのです。

そのお金はすべて、国や自治体に
取り上げられてしまうのです。

・税務調査の際に厳しく調べられる可能性

医療法人が、個人経営の医院と比べて
税務調査を受けやすいという傾向は
確認されていません。

とはいえ、いったん調査が決まると
かなり執拗に調べられる可能性が
あることは否定できません。

たとえば法人化することで
役員への報酬や給与が発生しますが、
この点で問題を指摘されることがあります。

そのほかにも法人化することで
それまでとは法体系が全体的に変わるため、
納税の際に何か見落としをしてしまう
恐れが生じるのです。

医療法人になってから、思わぬ形で足元をすくわれないためには?

医療法人になることで
手に入るメリットは数多く、
とてもひと言では
書き切れないくらいです。

しかし、メリットがあれば
デメリットもあるのが世の常。
あいにくと開業医は毎日が多忙です。
まして、アンチエイジング診療のような
独特の性質を持つ診療をしていると、
落ち着いて勉強している時間は
なかなか取れなくても不思議ではないでしょう。

少しずつ必要な知識・情報を
マスターしていくしかありませんが、
顧問税理士とコンスタントに
連絡を取り合うなどして、
アンテナを常に立てておくことが
求められるでしょう。

そして、いったん法人化してからも
常に情報収集を怠らないことが
いちばんでしょう。