AGEs(最終糖化産物)は主に、
食事から過剰に摂取した糖質と、
体内のタンパク質が結合する
「糖化反応」によって生成される老化物質で、
身体の「焦げ」とも呼ばれています。

これまでにも、AGEsと糖尿病との関連性、
糖尿病治療に関する分野での研究が
行われてきましたが、
近年はアンチエイジングの分野などでも、
非常に注目されています。

近年行われたいくつかの研究の結果、
AGEsにはレセプターがあることが
明らかとなってきました。

以前の記事で、短期集中連載として
AGEsに関する様々な情報を
ご紹介しました。

今回は、このAGEsのレセプターについて
ご紹介します。

AGEsが老化現象を引き起こす二つのパターン

糖化反応によって生成されたAGEsは、
主に2つの過程を経て、糖尿病の発症・進行や、
様々な老化現象に関わっていることが
示唆されています。

一つ目は、細胞内外のタンパク質に対する、
糖化や架橋形成です。
この変化が起こることにより、
タンパク質の正常な働きを阻害してしまうという、
直接的なパターンがあります。

そして二つ目は、
AGEsと特異的に結合する性質を持つ、
「AGEs受容体」を介するパターンです。

ではこの「AGEs受容体」とは、
いったいどのようなものなのでしょうか。

AGEs を特異的に認識する「AGEs受容体」の存在

糖化反応の進行により、血液や組織中に生成した
AGEsを特異的に認識する「AGEs受容体」
現在、複数発見されています。

「AGEs受容体」は、
主に血管、腎臓、神経の各細胞のほか、
マクロファージや造血幹細胞などでも
発現が確認されており、
他にも身体中のさまざまな細胞に
存在すると考えられています。

これらは、
AGEsと選択的に結合することで、
炎症を惹起するタイプ(Aタイプ)のものと、
それとは逆にAGEsの分解・除去に関与する
タイプ(Bタイプ)の二つに分けられます。

現在発見されている主な受容体/主な機能

では、AタイプとBタイプの受容体の種類と、
それぞれの特徴を挙げてみます。

【Aタイプ】

  • receptor for AGEs(RAGE)
    動脈硬化、糖尿病合併症、炎症の促進
  • AGE-R2(OST-48)
    細胞内シグナルの活性化
  • SR-A
    動脈硬化、腎症促進、泡沫細胞化

【Bタイプ】

  • AGE-R1
    AGEs除去、酸化ストレス低下
  • AGE-R3
    AGEs除去、細胞増殖やアポトーシス抑制
  • CD36
    AGEs除去
  • SR-BI
    AGEs分解、HDLのCE引き抜き
  • FEEL1、FEEL2
    細胞・修飾LDL・AGEsの
    細胞内への取り込み、分解
  • メガリン
    AGEs除去

受容体の種類だけで見れば、
アンチエイジング効果が期待できる
Bタイプの受容体の方が圧倒的に多いのですが、
AGEsが様々や老化現象や深刻な病気などを
引き起こしていることを鑑みると、
AGEsが多い状況では、RAGEなどAタイプの
受容体の発現数が、Bタイプを上回っていると
推測されています。

つまり、Bタイプを増やし、Aタイプに該当する
受容体を減らすことができれば、
効果的なアンチエイジングが可能となる
かもしれません。

老化現象を引き起こすレセプター RAGE

AGEs受容体のなかでも、
特に注目されているのがRAGEです。

RAGEは、細胞壁や血管壁を貫通する形で
存在しています。
細胞外からの様々な情報をキャッチするための、
アンテナの役割をするタンパク質の一つです。

生理的な条件下では、
肺での発現が多く確認されていますが、
その他には、AGEsの蓄積により、
形状や特性が変化してしまった細胞などでも
発現が確認されています。

では、RAGEとAGEsとの関連性の例として、
血管壁におけるメカニズムを見てみましょう。

血管内皮細胞表面に突き出した形で発現している
RAGEに対してAGEsが結合すると、
RAGEからのシグナルが細胞内に伝わり、
血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を誘発します。

その後、さらにいくつかの反応が惹起され、
血管透過性や血管新生が進行してしまい、
糖尿病網膜症や糖尿病神経障害などの、
細小血管障害の発症や進行に関わっていると
考えられています。

AGEsだけじゃない、RAGEと結合して病気を引き起こすもの

RAGEに結合することによって、
細胞内に異常なシグナル伝達をしてしまう物質は、
AGEs以外にも複数存在していることが
わかっています。

例えば「HMGB1」と呼ばれる、
がん転移に関わるタンパク質や、
アルツハイマー型認知症で神経細胞への蓄積が
問題となる「アミロイドβ」も、
RAGEへ結合することで細胞に異常なシグナルを
送ることが分かっています。

つまり、RAGEはがん転移や
アルツハイマー型認知症にも、
深く関わっているのです。

一方、RAGEは、
さまざまな疾患の発症や進展に関わるだけでなく、
外部からの細菌の侵入を防御する働きや、
細胞膜の損傷を感知する働きなど、
身体にとって必要な機能も持ち合わせていると
考えられています。

しかし、AGEsが増えることにより、
AGEsの受容体としての負の機能へと、
シフトされてしまうのです。

RAGEによる老化現象を防ぐには

身体の中からRAGEを取り除くことは、
理論上不可能です。
そして、AGEsとRAGEの結合を阻害することに
有効な薬剤なども、まだ研究段階です。

現在のところ、RAGE対策に効果を発揮すると
考えられることとしては、
血糖値を必要以上に上昇させず、
糖化反応を抑制することです。

この他、将来的には、
RAGEの除去、AGEsとRAGEの結合阻止、
RAGEからの信号を阻止する方法も
有効であると考えられます。

現在、AGEsの研究とともに、多くの研究機関で
RAGEの研究も行われていることから、
今後の進展が期待されます。

まとめ

RAGEによる老化現象の抑制について、
確実な方法は未だ見いだされてはいません。

現在のところは、糖化反応を抑制し、
AGEsを作らない、溜め込まない生活習慣こそが、
最大の予防策といえます。

すぐにでも取り組める方法としては、
バランスのよい食生活をすること、
適度な運動をして糖化反応を抑制すること、
規則正しい生活によりストレスを溜めないこと
などが挙げられます。

しかし、糖尿病やその合併症への対応策としての
研究が進む中で、糖化反応の抑制や、
AGEsとRAGEとの反応経路を遮断する方法が
検討され始めています。

それを上手く応用できれば、
アンチエイジングの新しい手法として、
期待できるのかもしれません。

参考

  1. アークレイグループ からだサポート研究所
    生体内糖化反応(グリケーション)とAGEs
    http://ebn.arkray.co.jp/disciplines/glycation/ages-01/
  2. アークレイグループ からだサポート研究所
    糖化ストレスとAGEs受容体
    http://ebn.arkray.co.jp/disciplines/glycation-stress/stress-05/
  3. AGE特異的受容体(RAGE)
    糖尿病 48(6) : 411~414, 2005
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/48/6/48_6_411/_pdf/-char/ja
  4. 金沢大学大学院医薬保健学総合研究所
    医学専攻血管分子生物学
    研究について
    http://biochem2.w3.kanazawa-u.ac.jp/research.html
  5. 明治大学 農学部生命科学科
    生体機能物質学研研究
    http://meiji-lifesci.jp/?page_id=352
  6. 糖尿病性血管障害とAGE/RAGE
    医学のあゆみ 244巻8号
    https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=924408&AC=12259