紙巻きタバコを電子タバコに変えることで、
健康被害を抑えることができるのか――

これは、電子タバコの普及とともに、
世界各国で研究されてきたテーマといえます。
今回は、電子タバコが健康に及ぼす影響について、
いくつかの研究結果を元に考えてみます。

世界の「電子タバコ事情」を再確認

世界保健機関(WHO)が2017年5月に公表した
報告書*1によると、タバコによる健康被害が原因で
世界では毎年700万人が死亡しており、
このうちの89万人は受動喫煙が原因で亡くなっている
そうです。

また、タバコが原因と考えられる医療費負担、あるいは
生産性の低下などにより、年間1兆4000億ドル
(日本円で155兆円以上に相当)の経済的損失
生じているとも伝えています。

一方、電子タバコによる健康影響については
どうでしょう。

WHOでは2016年に、
「本当のところは未解明である」としながらも、
「喫煙よりは害が少ないかもしれない」と記述された
声明を出しています。

こういった経緯を考慮すると、現在のところは
「電子タバコなら安全」という結論には
至っていないようです。

世界における電子タバコに関する研究

ここでは、2つの研究結果を
取り上げてみたいと思います。

2014年にベルギーのルーヴェン・カトリック大学の
研究グループが行ったランダム化比較試験*2では、
「電子タバコには、禁煙による離脱症状の緩和に
効果があり、およそ8カ月で喫煙者の半数近くが
禁煙に成功、喫煙本数が6割減った」
という報告がなされています。

世界的には、この頃から電子タバコが急速に普及し、
日本ではこれから数年遅れて、電子タバコの利用者が
急増しているようです。

また、イギリスなどでは
「禁煙に向けた使用を推奨する」として
捉えられています。

また、アメリカでは2017年7月に、
「2014~15年の全米タバコ調査」*3
(Current Population Survey-Tobacco
Use Supplement:CPS-TUS)
が公表されました。これによると、

  • 現在の喫煙者の38.2%、最近の喫煙者の49.3%が
    電子タバコを試している。
  • 禁煙を試みる者は、電子タバコの使用者65.1%、
    非使用者40.1%で、電子タバコを使用する者の方が
    禁煙を試みる可能性が高い。
  • 禁煙の成功率は、電子タバコ使用者8.2%、
    非使用者4.8%で、電子タバコ使用者の方が高い。

などのデータから、
「アメリカにおける成人喫煙者の電子タバコ使用の
大幅な増加は、集団レベルでの禁煙率に対し、
有意な増加との関連が示唆される」
としています。

日本における「電子タバコ事情」

では、日本国内ではどのような動きが
あるのでしょうか。

日本呼吸器学会は2017年10月、
「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する
日本呼吸器学会の見解」*4を公表しています。

その中では
「電子タバコの使用は、健康に悪影響がもたらされる
可能性がある」こと、
さらに
「電子タバコの使用による受動喫煙の影響により、
健康被害が生じる可能性があるため、
すべての飲食店やバーを含む公共の場所、
公共交通機関での使用は認められない」
という主旨の事柄が明記されています。

つまり、
電子タバコの健康への影響が不確実であるため
「禁煙エリア」での電子タバコの使用は認めない
ということです。

国立がんセンターによる研究結果は、世界に波紋を投じるか?

日本ではさらに、
前述の全米タバコ調査に対抗するかのような
研究結果が公表されました。

2017年12月12日、国立がん研究センターは、
「電子タバコでの禁煙は有効性が低い」との研究結果*5
を公表しました。

これによると、国立がん研究センターは
「電子タバコを使用した人は、使用しなかった人よりも
タバコをやめられた人が38%少なく、
電子タバコが禁煙の成功確率を約1/3低下させている
ことを示唆している」としています。

さらに、
「禁煙外来を受診することで、薬物療法(ニコチンを
含まない薬の処方)を受けた人では、禁煙の成功確率が
約2倍に上昇していることが示された」
とも述べています。

但し、この研究にはいくつかの限界があるようです。

まず、調査方法がインターネット調査であることが
挙げられています。

さらに
「(過去5年間に禁煙に取り組んだ)798名に対する、
禁煙方法ならびに禁煙の成功者数と失敗者数の分析」
であることから、
禁煙方法の選択は、禁煙意欲やタバコへの依存度により
変わるという点も、限界を示す理由となるようです。

つまり、今回の被験者の属性等を考慮し、
別の集団に対して同じ分析を行った場合、
禁煙への成功率/失敗率も変わってくる可能性がある、
ということが示唆されています。

さらに、電子タバコの種類による分析や評価までは
行われておらず、海外と比較が難しいこともあります。
海外では「ニコチン入りの電子タバコ」が主流ですが、
日本では「ニコチンを含まない電子タバコ」が主流
という、市場の違いがあるためです。

国立がん研究センターではこれらの研究結果から、
「電子タバコを禁煙の手段として推奨すべきではない」
という考えを示しています。

まとめ

研究グループによっては
「従来の紙巻きタバコよりも安全で健康被害が少ない」
とされ、一方では、
「(喫煙の方式が変わったとはいえ)従来の紙巻き
タバコと同様、健康被害が生じる可能性が現状では
否定できないため、引き続き規制の対象とする」
という評価を受けている電子タバコ。

研究者の視点、対象となる被験者の属性、
そして国による規制の違い、これらが統一された上での
さらなる研究が、求められているのかもしれません。

参考資料
*1:
WHO「Tobacco and its environmental impact: an overview」
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/255574/1/9789241512497-eng.pdf?ua=1

*2:
「Effectiveness of the Electronic Cigarette: An Eight-Week
Flemish Study with Six-Month Follow-up on Smoking Reduc-
tion, Craving and Experienced Benefits and Complaints」
http://www.mdpi.com/1660-4601/11/11/11220/htm

*3:
E-cigarette use and associated changes in population smoking
cessation: evidence from US current population surveys.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28747333

*4:
日本呼吸器学会 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する
日本呼吸器学会の見解
http://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/hikanetsu_kenkai.pdf

*5:
国立がんセンタープレスリリース 紙巻タバコの禁煙方法と
有効性を調査電子タバコでの禁煙は有効性が低い
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/1212/index.html
Electronic Cigarette Use and Smoking Abstinence in Japan:
A Cross-Sectional Study of Quitting Methods
http://www.mdpi.com/1660-4601/14/2/202/htm