私たちが生きていく上で、
どうしても体に溜まっていってしまうAGEs

AGEsは、単に体を老けさせるだけではなく、
様々な疾患の発症や増悪にも関係していることが
分かってきました。

AGEsと疾患に関する情報は過去の記事でも
挙げさせていただきましたが、今回は、
AGEsとの関連が指摘されるいくつかの疾患を
ピックアップし、そのメカニズムについて、
より深くご紹介していきます。

AGEsの蓄積と糖尿病との関係

生活習慣病の代表格ともいえる「糖尿病」

糖尿病患者は、年々増加の一途をたどっています。

厚生労働省が行っている
「平成 28 年国民健康・栄養調査結果の概要」
によると、2016年現在、
「糖尿病が強く疑われる者」と
「糖尿病の可能性を否定できない者」の合計は、
推定2,000万人超となっています。

糖尿病患者のうち、およそ40~50%は、
心血管疾患や脳血管疾患などで亡くなるか、
寝たきりの生活になると推計されています。

糖尿病とAGEsの関連が合併症を引き起こす?

近年、血中AGEs量の増加は、
糖尿病、非糖尿病に関わらず、
生活習慣病の発症・進展の危険因子であることが
明らかになってきました。

そのメカニズムには「糖化」が関係しています。

典型的な糖化タンパク質の一つに、
グリコヘモグロビンがありますが、
これは血液中のブドウ糖に、赤血球上にある
ヘモグロビンが結合したものです。

糖化を受けた(糖で修飾された)タンパク質は、
構造が変化して本来の機能が障害される他、
活性酸素を作り出す元ともなります。

糖化タンパク質はさらに、
糖化最終産物であるAGEsを作り出します。

生成されたAGEsは、
血管内皮細胞やマクロファージなどに表出した
AGEsの受容体、RAGEと結合すると、
サイトカインや活性酸素を生成するよう、
細胞に働きかけます。

すると、必要以上に生成されたこれらの物質が
毛細血管を傷つけるなど、
様々な障害が発生すると考えられています。

ある研究では、糖尿病患者110名に対し、
糖化反応を急速に進行させる血中3DG濃度と、
糖尿病の合併症進展状態を調査しました。

すると、血中3DGが100 nmol/L増加すると、
腎症リスクが1.94倍、網膜症リスクが2.04倍、
増加することが分かっています。
※3DG:
3-デオキシグルコソン。
AGEsの前駆体である糖化反応中間体の一種。

また、糖尿病合併症の一つである
「糖尿病性神経障害」の発症にも、
AGEsが関与していると言われています。

これには、以下の2通りのメカニズムがあると
考えられています。

  • タンパク質のAGE化そのものが神経機能を
    障害するメカニズム
  • AGEs受容体を介して組織反応を惹起する経路

いずれにしても、血糖値が高い状態が続くことは、
さまざまな合併症を伸展させる要因となり、
そのメカニズムにはAGEsが深く関与している
ようです。

AGEsと腎疾患との関係

腎不全による人工透析の5年生存率は60%?

日本透析医学会が公表している、2016年版の
「わが国の慢性透析療法の現状」によると、
2016年の透析患者数はおよそ33万人です。

このうち、新規透析導入患者は
およそ3.9万人でした。

人工透析を必要とする「慢性腎不全」を
引き起こす要因はいくつかありますが、
人工透析を導入したとしても、
5年生存率は60%程度だとされています。

また、2016年に人工透析を新規導入した
患者のうち、原疾患の第一位は糖尿病性腎症で、
全体の38.8%を占めました。
(男性42.5%、女性32.0%)

これに慢性糸球体腎炎28.8%、
腎硬化症で9.9%などが続きます。

腎不全を引き起こし進展させるAGEs

AGEsの中には、Glycer-AGEsと呼ばれる
ものがあります。

Glycer-AGEsは、細胞外基質に産生されることで
その機能を傷害し、腎糸球体の恒常性を破綻
させると考えられています。

さらに、腎臓内の血管内皮細胞や近位尿細管細胞、
マクロファージなどに表出するRAGEに作用
することで、血管内皮増殖因子(VEGF)などの
サイトカインの生成を促進させると
考えられています。

その根拠の一つに、
マウスを使った実験があります。

これによると、RAGEを過剰発現させた
トランスジェニックマウスでは、
対照群と比較して、糖尿病腎症が進展・憎悪
することが確認できたのだそうです。
※Glycer-AGEs:
グリセルアルデヒド由来のAGEs

AGEsと眼疾患との関係

網膜症とAGEs

眼科領域における糖尿病合併症には、
網膜症や角膜症などがあります。

糖尿病網膜症は、緑内障とともに、
日本人の失明原因の主要な疾患です

初期の糖尿病網膜症では、
網膜周皮細胞の選択的消失が起こり、
血管透過性が亢進したり、
細小血管瘤が形成されることが
分かっています。

こうした一連の変化の中には、
Glycer-AGEsの作用により生成される
VEGFが関与しているものがあります。

加齢黄斑変性とAGEs

近年、高齢化の進展により患者数が増加している
疾患の一つに、加齢黄斑変性があります。
加齢黄斑変性は、視力障害のない軽微なもの、
失明に至るものまで多彩な変化があります。

加齢黄斑変性の初期には、
新生血管は認められませんが、
黄斑領域には、ドルーゼンと呼ばれる
黄褐色の異常凝集タンパク質が認められます。

ドルーゼンは、AGEsを豊富に含む凝集物
であることが分かっており、
この疾患の進展・増悪にもAGEsが関与している
といわれています。

AGEsとがん

糖尿病患者はがんを発症しやすい?

日本人の死因第1位を独走している、がん。

かつて、2型糖尿病患者は、
肝臓、膵臓、子宮内膜、結腸、直腸、乳房、
膀胱などの癌との関連が示唆されている、
といわれていました。

現時点では明確な答えは出ていませんが、
AGEsが体の中で引き起こす、
さまざまな変化のメカニズムを考えると、
がんとの関連性も否定できない部分が
あるのではないでしょうか。

メラノーマとAGEs

AGEsとがんの発症・進展の関係性として、
悪性黒色腫 (メラノーマ)との関係
みていきます。

近年行われたある研究によると、
次のようなことが明らかになりました。

  1. AGEsは、その受容体であるRAGEを介して
    メラノーマ細胞に作用し、腫瘍細胞の転移
    および形態変化を促進する
  2. AGEsは、細胞の遊走および浸潤能も促進する

これらは、実際にメラノーマ細胞を植え付けた
マウスを使った研究で明らかになりました。

マウスのAGEs-RAGEシグナルを
抗RAGE抗体でブロックすると、
腫瘍の増大や肺などへの転移を抑制し、
生存率が高くなったのだそうです。

また、同じ研究の中でヒトのメラノーマから
採取された組織を染色した結果では、
正常組織と比較してメラノーマ組織内には
AGEsが豊富に存在することが確認されました。
このことからも、メラノーマ細胞では
AGEsが過剰に産生され、腫瘍の増殖や浸潤を
促進していると考えられます。

まとめ・AGEsを体にためないコツ

近年行われているいくつかの研究により、
AGEsが加齢性疾患に深く関与していること、
糖尿病の進展・増悪に深く関与していることが、
明らかになりつつあります。

そして、これらを予防・治療する目的で、
AGEs生成を阻害する方法についての
研究もなされています。

生体におけるAGEs関連疾患の予防と治療には、
AGEsの生成を阻害し、生成したAGEsを分解する、
さらにAGEs受容体の作用を阻害する
ことなどが考えられます。

今後の開発に期待する一方、
AGEsを体に溜めない ための
生活習慣についても、
意識する必要があるのではないでしょうか。

生きているだけで体に溜まっていく
AGEsを少しでも減らしていくためには、

  • 緩やかな運動習慣により、
    AGEsを作らせない体にすること
  • 同じ食材でも調理方法をかえ、
    食事から摂るAGEsを減らすこと
  • AGEsを蓄積させない成分、
    抗酸化成分を積極的に摂る

などの生活習慣を意識していく必要があります。

AGEs蓄積によるリスクを
しっかりと認識することで、
効果的なアンチエイジングに
繋げることができます。

参考

  1. 糖化と糖尿病合併症
    アークレイグループ からだサポート研究所
    http://ebn.arkray.co.jp/disciplines/glycation/ages-04/
  2. 糖化ストレスと腎疾患
    アークレイグループ からだサポート研究所
    http://ebn.arkray.co.jp/disciplines/glycation-stress/stress-06/
  3. 生活習慣病の発症・進展における
    Toxic AGEs (TAGE)-RAGE系の関与:-新たな治療戦略-
    J Kanazawa Med Univ, 37:141-161, 2012
    http://www.kanazawa-med.ac.jp/koho/sousetsu_takeuchi.pdf
  4. 生活習慣病の発症・進展における
    Toxic AGEs (TAGE) の関与 -新たな予防戦略-
    ~食事性AGEsおよび糖毒性の真実~
    J Kanazawa Med Univ, 40:95-103, 2015
    http://www.kanazawa-med.ac.jp/koho/tage.pdf
  5. 平成 28 年 国民健康・栄養調査結果の概要
    厚生労働省
    http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html
  6. 糖尿病合併症から身を守る
    東京都医学総合研究所
    http://www.igakuken.or.jp/medical/medical03/03-2.html
  7. 加齢疾患におけるAdvanced Glycation End Products
    (AGEs)の意義
    Anti-Aging Medicine 7 (10): 112-119, 2010
    http://www.anti-aging.gr.jp/english/pdf/2010/jpn/7(10)112-119jpn.pdf
  8. 図説 わが国の慢性透析療法の現状
    日本透析医学会
    http://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html
  9. 失明のインパクトと検診の重要性(緑内障を中心に)
    日本眼科医会
    http://www.gankaikai.or.jp/press/20161116_1.pdf
  10. 糖尿病と癌に関する委員会報告
    糖尿病 56(6):374~390,2013
    http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/jds-jca_report.pdf
  11. 糖尿病と癌に関する委員会報告 第2報
    糖尿病 59(3):174~177,2016
    http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/jds-jca_report_2.pdf